TFL的人間模様_vol,8
「ブランド拡散のために父親のツイッターを活用させてもらいます。」
「父はアニメーターの○○○(世界的に超有名なあの方!!)です。」
彼女は優秀者として選ばれたプレゼンテーションの場で初めて父の名を語った。
家族全員が芸術家。
父親は世界的なアニメーター。
多摩美術大学でテキスタイルを専攻。
新体操を12年間やってきた。
舞台衣装の大手アパレルで2年目を迎える。
ファッションブランドを始めるためにTFLに入学した。
表現者としての気持ちが空回りしていた。
授業に来るたび違うことが思いつきまとめられない。
発散してまとまらない思考。
収束しようとする段階でまた発散を繰り返す。
他人の評価も気になり、また違うことを考え始めてしまう。
大きすぎる父親の存在も自己表現することをためらわせていたのか?
やりたいブランドをまとめられないまま10ヶ月がすぎた。
周りは資料をまとめて洋服製作などの最終段階に突入している。
ファッションデザインにはアート表現にはない難しさがある。
誰かに購入して着てもらって完結するストーリーも要求される。
洋服を通じて私のやりたいことは何だろう?
差別化って何?
マーケティングは私が考えるの?
他にないデザインって何?
多数の人が「いいね」というデザインをしなければいけないの?
私がいいと思うデザインじゃいけないの?
葛藤の10ヶ月を仲間の支えで何とか乗り越えてきた。
修了プレゼンテーションの2週間前に研修で渡航したパリ。
エッフェル塔の前で自作した洋服を着て路上ダンスを披露する彼女がいた。
突き抜けていた。
振り切れていた。
しかし、何かに必死に抗っているようだった。
ラスト1ヶ月でまとめあげたファッションブランド企画。
「私がやりたいことをデザインしました。」
と言い切った。
ファッション業界のプロによる高い評価で優秀者14名に選考された。
プレゼンテーション見学者50名の評価も高い。
「私は、私がやりたい洋服ブランドを広げたいので、父親の協力を仰ぎます。」
「私の父は世界的に有名な○○○です。」
言い放った。
「やっと気づいた。」
「私は○○○の娘であることで、私なのだから。」
と叫んだように聞こえた。
エッフェル塔の前で踊りながら抗っていたのは、
世界に一人しかいない自分を認めない自分だったのだろう。