AIで超高精度な身体採寸をしても最適な洋服サイズを選べないかも?

 

EC上のサービスとして注目される「洋服のサイジング」に関してレポートをまとめました。

 

AI活用で身体サイズの採寸技術が誤差数ミリメートルで可能に!」などのニュースを聞くようになりました。

日進月歩で進化するテクノロジーですが、ECでの衣服購入に必要な人体サイズにはミリ単位の精度が必要なのでしょうか?

 

 

身体と衣服のサイズ、衣服に必要な「ユルミ」の関係性から探ってみましょう。

 

■衣服サイズは身体サイズよりバスト寸法で「14cm以上大きいこと」が望ましい

 

 

衣服には動作に対応する機能や体温調整機能が必要です。

 

この機能は「ユルミ」と言い身体サイズの周囲(B・W・H・腕周りなど)より、衣服の周囲サイズを大きくすることで「空間(隙間)」を生み出して「機能」をもたせます。

簡単に言うと、衣服は機能的にするために身体より大きなサイズで作ります。

 

衣服に必要な「ユルミ」はどれくらいの分量が必要でしょうか?

機能に分けて考えてみます。

 

①呼吸など生活に最低限必要なユルミ

②着脱用や運動に対するユルミ

③体温調整機能として人体と衣服の空間

④肌着やシャツなどの下に着用する衣服の厚み

 

①呼吸など生活に最低限必要なユルミ

=バストで+4cm程度

人間は呼吸をするだけでも身体のバストなどの周囲サイズが変化します。簡単な動作などにも対応するために衣服は大きなサイズで作らなければなりません。

経験的にバストサイズに4cmのユルミを加えます。この身体サイズからバストで4cm大きくした体型を原型(=工業用ボディ)にして大量生産の型紙が作られます。
※4cm大きくすることで身体との距離が5ミリメートル程度できる計算になります。

 

② 「着脱用や運動に対するユルミ」

③「体温調整機能として人体と衣服の空間」

④「肌着やシャツなどの下に着用する衣服の厚み」

=バストで+10cm程度(上着ほど大きくなる)

体温調整に必要な身体と衣服の距離は、「5〜15ミリメートル」(素材の通気性などの特性による)と言われています。

これを、衣服のサイズに表すと衣服のバスト寸法で5~10cm程度大きく作ることが最適で美しく、着心地が良い服となります。

 

 

つまり衣服には身体サイズから最低限以下のような「ユルミ分量」があることが「一般的な衣服の機能性」になります。

ヌードのバストサイズ+14cm程度(=4cm+10cm)以上

※素材自体が伸び縮みするスポーツウエアなどはユルミ分量は小さくても問題ありません。

 

バストラインを水平方向にスキャンした場合、身体と工業用ボディ、最適な衣服の関係性は以下の図のようになります。

 

 

9ARサイズ(バスト83cm)の女子に最適なタイトシルエットの衣服は「バスト97cm程度以上」になります。

※これより小さなサイズで展開されている商品もたくさんありますが、着心地よりデザインを優先したり、細身の人をターゲットすることを優先しています。

 

■洋服を作るための原型を「工業用ボディー」と言う

量産衣服の型紙制作方法は、戦後の洋服文化とともに広がりました。

ファッション専門学校で教える型紙制作方法は、量産用衣服の型紙制作方法です。

 

工業製品としての衣服を製作する基準(=原型と言います)になる人台を「工業用ボディー」と言い日本女子で最も出現率の高い9ARサイズを基準にして作成されています。

 

TFLで使用しているKiiyaの工業用ボディー原型

 

この9ARの工業用ボディーを基準にして、スカートやパンツ、ブラウス、ジャケット、コートなどのMサイズの型紙がつくられます。

そして、完成されたMサイズの衣服の型紙はS、Lサイズなどに縮小拡大(=グレーディング)されます。

 

では9ARの身体サイズ(ヌードサイズ)と衣服を製作するための基準になる工業用ボディーのサイズを比較してみましょう。

 

※代表的な工業用ボディメーカー「Kiiya」「AMIKOFASHIONS」のHPより数値抜粋

 

表を見てわかるように工業用ボディーは、バストとヒップが身体のヌードサイズ(9AR)より大きく作られています。

前述のように、身体サイズとの差異を「ユルミ分量」と呼び、工業用ボディーにはバスト寸法で4cmの「呼吸など生活に最低限必要なユルミ分量」が含まれていることになります。

 

次に身体サイズに関して考えてみます。

 

■日本成人女子の一般的な身体サイズは「9AR

日本で製造される衣服は、日本産業規格(JIS=Japanese Industrial Standardsの略)で統計・分類された身体サイズに合わせて製造されています。

 

「成人女子=身長の成長が止まった女子」の身体と衣服サイズの関係に着目してみます。

※最新のJIS規格の成人女子の身体サイズは、2001年8月に収集されたデータに基づき5年ごとに内容の確認がされています。

 

このJIS規格では日本の成人女子で最も多く出現する標準的なサイズを9ARと呼んでいます。

 

9ARの身体サイズは、身長158cm・バスト83cm・ウエスト64cm(10-20代)・ヒップ91cmです。

 

※ウエストサイズは年代とともに大きくなります。

 

そして9AR を基準にして体型、身長を分類してサイズを区分します。

【体型区分(バストとヒップのサイズの組み合わせ)】

A 体型  身長とバストで区分し最も出現率の高いヒップサイズの組み合わせの体型

Y 体型   A 体型よりヒップが 4cm 小さい

AB体型 A 体型よりヒップが 4cm 大きい

B 体型  A 体型よりヒップが 8cm 大きい

 

【身長区分】

R           158cm   Regular (普通)

P            150cm   Petite(小さい)

PP         142cm   上記のPよりさらに小さい

T           166cm   Tall(長身)

 

■着心地は「B・W・H」で見た目は「丈」が大きく影響する??

JIS規格で規定される身体と衣服のサイズは身長とB・W・Hです。

そで丈や股下などの丈(縦方向)のサイズは規定されていません。

B・W・Hやもも周りなどの周囲寸法が身体サイズに合わないと着心地が悪く、最悪、着ることができない状況になります。一方、丈などの縦方向サイズが合わなくても着れなくなることはなく、既製品メーカーは長めに制作して個人の好みに合わせて長さ(丈)を調整できるように対応しています。

つまり、衣服が着れるかどうか、着心地に問題がないかどうか、のサイズ情報は周囲寸法で、丈などの寸法は着たときの「見た目」に大きく影響する寸法であると言ってもよいと思います。

 

■S・M・Lなどのサイズは製品のサイズ

この9ARを標準にした女子サイズに合うようにつくられた製品寸法が「Mサイズ」と表記されます。

つまりS・M・L のサイズは製品サイズを意味し、それぞれの製品に適応できる推奨身体サイズには幅があります。

 

 

※前述のように衣服には「ユルミ分量」が必要なため身体より大きく作られています。そのため1つの製品サイズに適用できる身体サイズに幅があります。

つまり、既製品はこの「ユルミ分量」を上手く利用して多くの人に適用できるようにサイズ区分が考えられています。

こちらの表で、前述の身体サイズの体系区分(A体Y体AB体B体)にも適応できるサイズ幅になっていることが確認できると思います。

 

■身体と製品サイズがわかっても数字だけでは最適なフィットの衣服を選べない?!

では国内最大のECサイトのZOZOTOWNで掲載されているMサイズの商品のサイズと9ARの女子の身体サイズを比較してみましょう。

 

※トップスに関してはアイテム・デザイン・ブランドにより身体と製品のサイズが様々で数字だけ見ても自分に似合うか、サイズがフィットするかどうか、が判断つきません。

 

※ボトムに関してもウエストサイズがまちまちで製品サイズを比較すると購入に戸惑ってしまいます。

 

このように例え数ミリ単位で自分の身体サイズがわかっていたとしても、製品サイズとの差異には「ユルミ分量」「アイテムデザインを構成するために必要な分量」などがブランドごとに大きく違い「着用の姿」を確認しない限り「最適な製品寸法」を選び出すことはできません

 

■伸縮性素材で「ユルミ」を少なくしてタイトなフィットを可能にする

機能性のために必要な「ユルミ」分量を少なくする方法は伸びる素材を使用することです。

激しく大きな動きに対応することが必要なスポーツウエアやタイトなシルエットのパンツなどに伸縮性のある素材が使われるのはこのためです。

人体には周囲の方向(横方向)でのユルミが必要ですので、ほとんどの伸縮性素材は横方向に伸縮する素材が使われます。

■最後に・・・

前述のように機能性を持たせるために衣服は身体サイズより大きく作られます。これはオーダーメイドで作る衣服でも同じです。

同じサイズの製品を効率よく大量に作る量産品は、この「ユルミ分量」をうまく利用して1つのサイズで多くの身体サイズの方に「美しく」着れるように設計されています。

身体と衣服製品サイズの差異が大きいほど同じサイズで適応できる人が多くなるので、既製品メーカーは効率のために大きなサイズの製品で多くの人に適用させたくなります(ウエストゴムのパンツなどはこの発想です)。

しかし、衣服はサイズが合わないと「美しくない」「カッコ悪い」「着づらい」「肩が凝る」などの理由で購入されなくなります。

AIを活用して身体サイズを採寸しただけでは「着心地の良い製品サイズ」「着用時の見た目の良い製品サイズ」「最適な製品サイズ」を選び出すことは不可能です。そのためにAIを活用した最適な洋服サイズ選びはもっともっと新しいフェースに進んでいくことになります。

 

ファッションテック領域でスタートアップを目指すみなさん、この「課題」も「クリエイティブ・ジャンプ」で解決してください。