私たちは今、「成長」を前提とした経済の限界に直面しています。大量生産・大量消費によって拡大してきたファッション産業は、環境負荷や労働問題、過剰在庫といった課題も同時に生み出してきました。こうした状況の中で、ファッションデザインには単に売れるものをつくるだけではない、新しい役割が求められています。
これまでファッションの価値は、「どれだけ売れるか」「どれだけ注目されるか」といった市場の評価によって測られてきました。しかし今は、それだけでは不十分です。環境への配慮や社会的な公平性、文化の継承、そして個人の満足感といった、これまで見えにくかった価値が重要になっています。デザインは、こうした多様な価値を形にし、社会に提示する役割を担うようになっているのです。
ここで重要なのは、価値が一つではないという点です。環境に優しい製品は価格が高くなりやすく、多くの人に届きにくい場合があります。一方で、手頃な価格の製品は環境への負荷が大きいこともあります。このようなトレードオフの中で、どの価値を優先するのかを考え、設計することが、これからのデザイナーに求められています。
また、ファッションのあり方そのものも変化しています。服を「所有する」だけでなく、レンタルやサブスクリプションといった「使う」形が広がり、価値の中心がモノから体験へと移りつつあります。さらに、バーチャルファッションのように、デジタル空間で自己表現を行う新しい領域も生まれています。ファッションは、物理的な商品だけでなく、サービスや体験、さらには情報としての側面も持つようになってきました。
しかし、こうした新しい動きも、単に消費を続けるための手段になってしまえば意味がありません。大切なのは、「なぜそれをつくるのか」「誰のための価値なのか」という問いを持ち続けることです。デザインは常に何らかの価値観を反映しており、その選択は社会へのメッセージでもあります。
これからのデザイナーには、経済だけでなく、環境や社会、文化といった複数の視点を統合し、バランスよく設計する力が求められます。それは簡単ではありませんが、新しい価値を生み出す創造的な挑戦でもあります。
ファッションは時代を映す鏡であり、未来のヒントでもあります。いま私たちがどのような価値を選び、どのように表現するかが、これからの社会のあり方につながっていくのです。デザインは、その出発点にある重要な行為なのではないでしょうか。
デザインは価値の概念を拡張できると思いますか?
ファッションは経済を超えられると思いますか?
執筆:木内 潤一