これまで私たちは「着るための服」をクローゼットに保管してきました。しかし近年、その概念が大きく変わり始めています。
現実には存在しないデジタルファッションやアバター用の衣装、SNS投稿用のスタイリングデータなど、実際に着ることを前提としない服のコレクションが、デジタルクローゼットに保管されているのです。
この背景には、ファッションの価値そのものの変化があります。これまで服は、身体を守る機能や着心地、耐久性といった実用性によって評価されてきました。しかしSNSやメタバースが普及した現在では、「どのように見えるか」「どのように認識されるか」が重要な価値になっています。オンライン上では、実際に着用しなくても視覚的に魅力的であれば十分に意味を持つのです。
こうした変化は、ファッションの経済にも影響を与えています。デジタルファッションは物理的な生産や物流を必要としないため、小規模なクリエイターでも市場に参加しやすくなります。一方で、簡単に複製できるデータにどのような価値を持たせるのかという新たな課題も生まれています。
また、「所有」という考え方も変わりつつあります。デジタルクローゼットにおける所有とは、物を保有することではなく、利用する権利や表示する権利を持つことに近いものです。つまり、「持つ」ことよりも「使える」ことに価値が移り始めているのです。
これからのファッションは、「着るための服」だけでなく、「見せるための服」も重要な役割を持つようになるかもしれません。服は身体を包む道具であると同時に、自己表現やコミュニケーションのためのメディアへと広がりつつあります。この変化の中に、未来のファッションの姿が隠れているのかもしれません。
あなたが服を持つ理由は、着るためですか?
それとも見せるためですか?
執筆:木内 潤一